Pocket

funeral-cost-uk

島田裕巳さんの「葬式は、要らない」は、現代の葬式をもう一度考えなおし、お葬式とは、弔うとは何なのかをもう一度見つめなおす内容で、30万部を超えるベストセラーになりました。

本書の中で海外の葬式費用との比較が出ています。

日本人の葬儀費用は平均231万円。これはイギリスの12万円、韓国の37万円と比較して格段に高い。浪費の国アメリカでさえ44万円だ。

島田裕巳『葬式は、要らない』bookデータベースより

本書でも時代としては少し前のものだがと前置きされている通り、海外のデータは1990年代のデータです。
最近では日本の葬儀費用の高さを指摘するという文脈の中で、このデータを元にした比較が用いられることが多く、逆に言えば島田さんの著書以外で海外の葬儀費用について言及している日本語の情報がほとんど無いというのが現状です。

そこで今回は1990年代のデータの中でも、特に葬儀費用が一番安いイギリスに着目し、イギリスの葬儀の現状を調べてみます。

目次

イギリスの葬儀費用は急激に上昇している

イギリスの葬儀の平均費用は約105万円

Sunlife Directの2014年のレポートによると、死にかかるコスト(Dying cost)のうち葬儀の基本費用の平均は£3,590
また生花や搬送料などにあたる追加費用の平均は£1,833、財産管理など事務弁護士を雇う費用の平均が£3,004の、以上の合計£8,427を死にかかるコスト(Dying cost)の平均としています。

これは現在の日本円にして約163万円であり、3番目の事務弁護士費用平均は特殊事情かつ葬儀そのものの費用ではないため除外すると、葬儀費用の合計は£5,423、日本円にして約105万円です。『葬式は、要らない』で引用されている「12万3000円」と、一旦為替レートを除外して考えても約93万円も増加していることになります。

90年代のイギリスのデータはどのようなものか。

島田さんが引用されているデータはどのようなものなのでしょうか?これについては考える葬儀屋さんのブログで詳しく分析されているのでご参照を。出典元を拝借すると、経済企画庁物価局価格構造対策室日本と諸外国の葬儀費用の比較というデータから引用された可能性が高いとのことです。(リンク先は文字コードの関係で環境によっては文字化けします。)
(ちなみに、日本の(株)サンライフとイギリスのSunLife directは無関係です。SunLife directの調査は2004年からです。)

これによるとイギリスのデータは1994年当時のもので、以下の様な内容になっています

イギリス(1994) 円(£1=¥157.3)
棺代(ベニア) 38,000円
サービス料 85,000円
葬儀費用 44,000円
霊柩車 14,000円
リムジーン使用料 11,000円
遺体搬送 11,000円
生花 5,000円
合 計 123,000円
医師への支払い 9,000円
教会への支払い 15,000円
火葬場費用 23,000円
総計 170,000円

下の三項目を含まない数字がイギリスの葬儀費用「12万3000円」の内訳です。下の3項目は他費用として除外されていますが、医師への支払いは死亡診断書や死後処置に対する支払いと推測され、教会も日本でいう寺へのお布施にあたることを考えると17万円というのが実質的な葬儀費用となりそうです。それでも、日本に比べるとかなりの低価格ですね。

為替レートによる修正

20年前の為替レートなので、為替に寄る変動も考慮しないといけません。1ポンドあたり157.3円の計算なので、当時のレートだと17万円の葬儀は1081ポンドであることが分かります。ちなみに当時のレートで計算した場合は、現在の葬儀はおよそ85万円。現在のレートだとおよそ105万円なので、ここ20年の為替の変動も著しいことが分かります。

1994 2014
英ポンド £1,081 £5,423
日本円(当時のレート) 170,000円 850,000円
日本円(現在のレート) 210,000円 1050,000円

資料の精確性に疑問

(株)サンライフの資料では当時の日本の平均葬儀費用を405万円と見積もっています。
しかし、日本消費者協会が1995年に行った「第5回葬儀についてのアンケート調査」で葬儀費用・飲食接待費・寺院費用の全国平均は約215万円です。

サンプル数が不十分とはいえ、日本消費者協会のアンケートとここまでかけ離れた数値なので元データの精確性に疑問が残ります。
イギリスの94年の平均葬儀費用17万円という数値についても、実態とかけ離れた数値である可能性はありますが、
SunLife Directの詳細な調査が始まったのは2004年以降ですので、本記事ではひとまず17万円という数字が正しいと仮定します。

葬儀費用はなぜ膨れ上がったか

日本とイギリスの平均葬儀費用の推移(日本消費者協会・SunLife Direct・(株)サンライフより)

日本とイギリスの平均葬儀費用の推移(日本消費者協会・SunLife Direct・(株)サンライフより)

(株)サンライフの17万円とイギリス・SunLifeDirect調査の2014年の平均葬儀費用までの推移と日本消費者協会調査の日本の平均葬儀費用の推移とを比較したものです。(イギリスの2004年のデータは複数の資料から推定)
このようにしてみると2007年以後ゆるやかに下がっていく日本に対して、2007年の世界金融危機をはさみながらも、急激に上昇を続けるイギリスという対比が浮かび上がります。

では、なぜイギリスの葬儀価格が高騰しているのでしょうか。

イギリスの葬儀費用のインフレは何が原因か

そもそもなぜイギリスの葬儀がこれほどまでに高騰しているのでしょうか。
イギリスの大手新聞社のデイリー・テレグラフの「Why the cost of dying is rising so fast」という記事を参照してみます。

イギリスのインフレとその3倍のスピードで上昇する「死のコスト」

日本では長期のデフレに悩まされていますが、イギリスでは政府主導のインフレ・ターゲットの政策が続いており、毎年物価が上昇しています。
なので、20年前よりもサービス価格が上昇していること自体は何ら不思議なことではありません。

葬儀費用の上昇にインフレも一役買っていることは確かですが、一方で死のコスト(葬儀だけでなく、人の死にかかる全体のコスト)の上昇率はインフレ率の三倍のスピードで上昇していると同記事で指摘されています。

上昇しているのは葬儀費用の内、裁量が効かないコスト

funeral-cost-uk

イギリスの「Cost of Dying」の内訳と推移 (Cost of Dying report – SunLife Directより)

イギリスの「死のコスト」は大きく分けて3つに分類することができます。

  1. Non-Dicretionry Costs:裁量権の無いコストなので葬儀に必ず必要になる「葬儀の基本費用」に該当します
  2. Dicretionary Costs:裁量権のあるコストなので、自由にオプションを選べる「追加費用」に該当します
  3. Estate Administration Costs:文字通り遺産管理費用ですが、イギリスでは事務弁護士を雇い、死後の遺産管理の手続きなどを行ってもらうことが多いようです。

相続などは日本でもよく問題にあがりますが、イギリスではさらに一歩進んで葬儀費用とあわせて人が亡くなった時の出費として認識されているようです。グラフにおいても興味深い動きを見せており、全体のコスト増に大きく影響していますが、今回は日本との比較できる部分のみを扱っているので今回は除外します。 葬儀費用のみのに着目すると、やはり一貫して上昇しているのは裁量の効かない葬儀の基本費用が一貫して上昇していることが分かります。 では、具体的に葬儀の基本費用の上昇の背景は一体何なのでしょうか。

火葬費用の上昇が起きている

実はイギリスは火葬大国

日本は火葬率99%を誇る世界一の火葬大国ですが、意外にもイギリスも火葬率の高い国です。EFFS(European Federation of Funeral Services)のレポートによると、1960年に34.7%だったのが2012年には74.28%にまで上昇しており、これは世界各国を比較しても高い水準となっています。

民営火葬場の増加

かつて完全に公共事業であった火葬場も、現在では民営の火葬場の増加が顕著です。 260あるうち、約23%にあたる約60が民営の火葬場となっており、これは日本の全火葬場数に対する民間の火葬場の割合が1%であることを考えると、かなりの割合であることが伺えます。 利益重視の経営を行う民営火葬場の増加が、葬儀費用のインフレに貢献していると指摘されています。

公営火葬場の現状

近年、イギリスでは民営の火葬場が増えていますが、それでもイギリス全土260あまりの火葬場のうち、約200箇所は公営の火葬場が占めています。 公営の火葬場の多くは地方自治体が運営しており、イギリスの地方自治体は中央からの補助金が主な財源です。 ところが、イギリスの国家予算の削減に付随して、公営火葬場の収益性について注意深くなっており、火葬場の収益を改善する動きは公営であっても変わらないのです。 2015年の夏季予算においても、火葬施設の規模とニーズの見直しなどに明確に言及しており、各火葬場は収益性の改善に敏感になっているのです。

火葬場を直撃したエネルギー価格の高騰

そして、収益性を追求する上でエネルギー価格の高騰が最悪の形で現れてしまいました。 画像はヨーロッパの原油価格指標のブレント原油価格の推移ですが、2000年以降急激に上昇しているのが分かります。 民間だけでなく公営の火葬場においても収益性を追求している中で、エネルギー価格も急激に高騰しており、火葬費用は必然的に上昇していると言えるでしょう。

土葬はもっと高い

それなら土葬で良くないのでしょうか。 確かに価格上昇を続ける火葬に対して、土葬の価格変化は落ち着いています。 しかし、イギリスの火葬の平均費用£660に対し、土葬では£1,750と、イギリスでは1,000ポンド以上土葬の方が高くつくようです。 イギリスでは火葬後の遺骨についての法律はかなり緩和してきており、散骨や自宅の庭に埋めることなども可能です。 一方で、土葬を選択した場合は確実に墓地を用意する必要があり、多くは日本の墓地のように墓所とリース契約を結ぶ必要があります。 余談ですが、日本の墓地購入費用の平均が約196万円(2014年:鎌倉新書調査)であることを考えると、イギリスの土葬にかかる費用の平均約34万円というのは興味深いでしょう。永代使用料にあたるリース契約の価格はもちろん、やはり墓石の価格が違うことが大きいのだと思います。 葬儀費用を抑えることを考えた場合、選択肢としては火葬を選ばざるを得ないようです。

教会費用と葬儀社

最も急激に上昇したのは「教会費用」

葬儀の基本費用の中でも最も急激に伸びているのは、教会費用です。教会費用は2013年に平均して30%の増加がありましたが、これはイングランド国教会が2013年に、£102から£160に大幅に引き上げ、さらに国内16000の全教会の料金を統一化したことが大きく影響しています。

葬儀社がリスク回避で価格を引き上げている

葬儀社へ支払うコスト自体は、他のアイテムに比べて価格上昇のスピードが早いわけではありませんが、イギリス経済の低迷を背景とした事情が葬儀社を直撃することになります。 5家族に1家族は葬儀社への支払いができず、葬儀社は今後ますます未払のリスクを抱えることとなるため、葬儀価格をあげたり、2/3近くの頭金を最初に請求するなどの、葬儀社のリスク回避の動きも影響していると指摘しています。

広がる「葬儀の貧困」

葬儀を行う7人に1人が平均46万円の不足を出す

上昇し続ける葬儀費用に対して、やはり支払えない人が増えてきており、イギリスでは葬儀の貧困が深刻化しており、葬儀を行った人のうち、14%の人が平均£2,371の不足額を払うことができません。これは日本円にして約46万円です。 イギリスの年間死亡者数から考えると、国全体の不足額は約2億ポンドにも達することになります。

「葬儀の貧困」は今後も広がる予想

例えば、生花や搬送などの追加費用を除いた葬儀の基本価格は2014年の£3,590ですが、5年後の2019年には£4,489まで上昇するだろうと予想されています。日本円にすると約70万円から約87万円への上昇となり、減少傾向にある日本と比較してその凄まじいスピードが分かると思います。

葬儀費用が上昇し続ける中で何が起きているか

プリペイド葬儀

これは葬儀価格を事前に支払う仕組みです。イギリスでは今後も葬儀価格の上昇が予想されているため、プリペイド葬儀を選択して現在の価格で抑えようという人が多いようです。 プリペイド葬儀はいわば将来の葬儀価格の上昇に対する保険となっています。一旦払ってしまえば、その時の価格で葬儀が行えるものの、葬儀内容の全てが含まれているわけではなく、葬儀を執行する者が葬儀の詳細を決定する必要があります。

生命保険

最も簡単な方法は生命保険に入る方法です。 しかし、葬儀費用が上昇した結果、生命保険の受け取る保険金を上回るリスクもあります。 さらに、長生きしすぎた場合には支払う保険料が葬儀費用を上回ってしまうという逆のリスクもあるのです。

直葬やDIY葬儀が増えている

保険で賄う方法以外にもセレモニーは含まず直接火葬場に行く「Direct cremation」(日本でいうところの直葬)や、 追加費用がかかる部分を自分たちで用意したりするDIYオプション、あるいは葬儀社を介さない完全なDIY葬などが増えているようです。

日本にはない「死のコスト」

イギリスでは煩雑な遺産管理を事務弁護士に委託する

今回は日本との比較なので、葬儀費用を中心にしていますが、イギリスでは死後の遺産管理などを行う事務弁護士などの雇用費用も「死のコスト」として重要な位置にあります。 イギリスでは法廷弁護士事務弁護士に分かれており、特に複雑な手続きなどは事務弁護士に依頼することが一般的で、特に遺産の手続きについては葬儀費用と並んで遺産管理のための事務弁護士の雇用費用までが一緒に考えられているようです。そして、基本的に遺産手続きにおける事務弁護士は遺産総額のうちの何割かを報酬として受け取ります。

不動産価格の高騰で遺産総額も増大し、結果として事務弁護士の雇用コストが上がっている

イギリスの2002年の平均住宅価格を100としたときの推移

イギリスの2002年の平均住宅価格を100としたときの推移 (House Price Index, March 2015 – Office for National Staticsより)

遺産における最も大きい金額は不動産ですので、不動産価格の変化が遺産管理額に大きな影響を与えることになります。
イギリスの平均住宅価格の推移を見ると、2007年の世界金融危機以降は下落していたものの、2014年になって急上昇していることが分かります。
その影響を受け、遺産管理費用も2013年の平均£2160から2014年には£3004へ、一気に急上昇しています。

また、2013年から2014年の1年間で、事務弁護士を雇うよりも自分たちで財産管理の手続きをする人が39%から52%に大きく上昇しています
遺産手続きは非常に複雑で時間がかかりますが、今やお金を節約することを選ぶ人が非常に増えているようです。

まとめ

依然として日本の方が高額な傾向だが、イギリスが抱えている問題の方が深刻かもしれない

  • イギリスの葬儀価格は急上昇。平均12万円と言われていた価格は平均70万円までに上がっている
  • さらに、事務弁護士を雇う費用を合わせたイギリス人の考える「死のコスト」のトータルは平均162万円
  • 依然として墓地購入などを含めて依然として日本の方が高額だが、減少傾向にある日本に対しイギリスはこれからも葬儀価格のインフレが続く見通し

いかがでしたでしょうか。
「12万円」というデータが古いんじゃないかと思って調べてみると、イギリスの葬儀を取り巻く現状が少し見えてきました。
日本の葬儀が依然としてイギリスより高額なのは確かですが、葬儀費用以外でも日本には香典という収入がありますが、イギリスにはそれがありません。

低価格化が進む日本の葬儀と比べて、今後さらに葬儀費用のインフレの一途をたどるイギリスの葬儀が抱える問題は深刻かもしれません。

参考文献

免責

  • 為替レートは執筆時の為替レートです。
  • 注意して資料を読みましたが、誤訳・ミスリード等があった場合はご指摘いただければ幸いです。
Pocket

https://memories-in-time.net/wp-content/uploads/2015/07/funeral-cost-uk-1024x576.jpghttps://memories-in-time.net/wp-content/uploads/2015/07/funeral-cost-uk-150x150.jpgおさる海外の葬儀
島田裕巳さんの「葬式は、要らない」は、現代の葬式をもう一度考えなおし、お葬式とは、弔うとは何なのかをもう一度見つめなおす内容で、30万部を超えるベストセラーになりました。 本書の中で海外の葬式費用との比較が出ています。 日本人の葬儀費用は平均231万円。これはイギリスの12万円、韓国の37万円と比較して格段に高い。浪費の国アメリカでさえ44万円だ。 島田裕巳『葬式は、要らない』bookデータベースより 本書でも時代としては少し前のものだがと前置きされている通り、海外のデータは1990年代のデータです。 最近では日本の葬儀費用の高さを指摘するという文脈の中で、このデータを元にした比較が用いられることが多く、逆に言えば島田さんの著書以外で海外の葬儀費用について言及している日本語の情報がほとんど無いというのが現状です。 そこで今回は1990年代のデータの中でも、特に葬儀費用が一番安いイギリスに着目し、イギリスの葬儀の現状を調べてみます。 イギリスの葬儀費用は急激に上昇している イギリスの葬儀の平均費用は約105万円 Sunlife Directの2014年のレポートによると、死にかかるコスト(Dying cost)のうち葬儀の基本費用の平均は£3,590、 また生花や搬送料などにあたる追加費用の平均は£1,833、財産管理など事務弁護士を雇う費用の平均が£3,004の、以上の合計£8,427を死にかかるコスト(Dying cost)の平均としています。 これは現在の日本円にして約163万円であり、3番目の事務弁護士費用平均は特殊事情かつ葬儀そのものの費用ではないため除外すると、葬儀費用の合計は£5,423、日本円にして約105万円です。『葬式は、要らない』で引用されている「12万3000円」と、一旦為替レートを除外して考えても約93万円も増加していることになります。 90年代のイギリスのデータはどのようなものか。 島田さんが引用されているデータはどのようなものなのでしょうか?これについては考える葬儀屋さんのブログで詳しく分析されているのでご参照を。出典元を拝借すると、経済企画庁物価局価格構造対策室の日本と諸外国の葬儀費用の比較というデータから引用された可能性が高いとのことです。(リンク先は文字コードの関係で環境によっては文字化けします。) (ちなみに、日本の(株)サンライフとイギリスのSunLife directは無関係です。SunLife directの調査は2004年からです。) これによるとイギリスのデータは1994年当時のもので、以下の様な内容になっています イギリス(1994) 円(£1=¥157.3) 棺代(ベニア) 38,000円 サービス料 85,000円 葬儀費用 44,000円 霊柩車 14,000円 リムジーン使用料 11,000円 遺体搬送 11,000円 生花 5,000円 合 計 123,000円 医師への支払い 9,000円 教会への支払い 15,000円 火葬場費用 23,000円 総計 170,000円 下の三項目を含まない数字がイギリスの葬儀費用「12万3000円」の内訳です。下の3項目は他費用として除外されていますが、医師への支払いは死亡診断書や死後処置に対する支払いと推測され、教会も日本でいう寺へのお布施にあたることを考えると17万円というのが実質的な葬儀費用となりそうです。それでも、日本に比べるとかなりの低価格ですね。 為替レートによる修正 20年前の為替レートなので、為替に寄る変動も考慮しないといけません。1ポンドあたり157.3円の計算なので、当時のレートだと17万円の葬儀は1081ポンドであることが分かります。ちなみに当時のレートで計算した場合は、現在の葬儀はおよそ85万円。現在のレートだとおよそ105万円なので、ここ20年の為替の変動も著しいことが分かります。 1994 2014 英ポンド £1,081 £5,423 日本円(当時のレート) 170,000円 850,000円 日本円(現在のレート) 210,000円 1050,000円 資料の精確性に疑問 (株)サンライフの資料では当時の日本の平均葬儀費用を405万円と見積もっています。 しかし、日本消費者協会が1995年に行った「第5回葬儀についてのアンケート調査」で葬儀費用・飲食接待費・寺院費用の全国平均は約215万円です。 サンプル数が不十分とはいえ、日本消費者協会のアンケートとここまでかけ離れた数値なので元データの精確性に疑問が残ります。 イギリスの94年の平均葬儀費用17万円という数値についても、実態とかけ離れた数値である可能性はありますが、 SunLife Directの詳細な調査が始まったのは2004年以降ですので、本記事ではひとまず17万円という数字が正しいと仮定します。 葬儀費用はなぜ膨れ上がったか (株)サンライフの17万円とイギリス・SunLifeDirect調査の2014年の平均葬儀費用までの推移と日本消費者協会調査の日本の平均葬儀費用の推移とを比較したものです。(イギリスの2004年のデータは複数の資料から推定) このようにしてみると2007年以後ゆるやかに下がっていく日本に対して、2007年の世界金融危機をはさみながらも、急激に上昇を続けるイギリスという対比が浮かび上がります。 では、なぜイギリスの葬儀価格が高騰しているのでしょうか。 イギリスの葬儀費用のインフレは何が原因か そもそもなぜイギリスの葬儀がこれほどまでに高騰しているのでしょうか。 イギリスの大手新聞社のデイリー・テレグラフの「Why the cost of dying is rising so fast」という記事を参照してみます。 イギリスのインフレとその3倍のスピードで上昇する「死のコスト」 日本では長期のデフレに悩まされていますが、イギリスでは政府主導のインフレ・ターゲットの政策が続いており、毎年物価が上昇しています。 なので、20年前よりもサービス価格が上昇していること自体は何ら不思議なことではありません。 葬儀費用の上昇にインフレも一役買っていることは確かですが、一方で死のコスト(葬儀だけでなく、人の死にかかる全体のコスト)の上昇率はインフレ率の三倍のスピードで上昇していると同記事で指摘されています。 上昇しているのは葬儀費用の内、裁量が効かないコスト イギリスの「死のコスト」は大きく分けて3つに分類することができます。 Non-Dicretionry Costs:裁量権の無いコストなので葬儀に必ず必要になる「葬儀の基本費用」に該当します Dicretionary Costs:裁量権のあるコストなので、自由にオプションを選べる「追加費用」に該当します Estate Administration Costs:文字通り遺産管理費用ですが、イギリスでは事務弁護士を雇い、死後の遺産管理の手続きなどを行ってもらうことが多いようです。 相続などは日本でもよく問題にあがりますが、イギリスではさらに一歩進んで葬儀費用とあわせて人が亡くなった時の出費として認識されているようです。グラフにおいても興味深い動きを見せており、全体のコスト増に大きく影響していますが、今回は日本との比較できる部分のみを扱っているので今回は除外します。 葬儀費用のみのに着目すると、やはり一貫して上昇しているのは裁量の効かない葬儀の基本費用が一貫して上昇していることが分かります。 では、具体的に葬儀の基本費用の上昇の背景は一体何なのでしょうか。 火葬費用の上昇が起きている 実はイギリスは火葬大国 日本は火葬率99%を誇る世界一の火葬大国ですが、意外にもイギリスも火葬率の高い国です。EFFS(European Federation of Funeral Services)のレポートによると、1960年に34.7%だったのが2012年には74.28%にまで上昇しており、これは世界各国を比較しても高い水準となっています。 民営火葬場の増加 かつて完全に公共事業であった火葬場も、現在では民営の火葬場の増加が顕著です。 260あるうち、約23%にあたる約60が民営の火葬場となっており、これは日本の全火葬場数に対する民間の火葬場の割合が1%であることを考えると、かなりの割合であることが伺えます。 利益重視の経営を行う民営火葬場の増加が、葬儀費用のインフレに貢献していると指摘されています。 公営火葬場の現状 近年、イギリスでは民営の火葬場が増えていますが、それでもイギリス全土260あまりの火葬場のうち、約200箇所は公営の火葬場が占めています。 公営の火葬場の多くは地方自治体が運営しており、イギリスの地方自治体は中央からの補助金が主な財源です。 ところが、イギリスの国家予算の削減に付随して、公営火葬場の収益性について注意深くなっており、火葬場の収益を改善する動きは公営であっても変わらないのです。 2015年の夏季予算においても、火葬施設の規模とニーズの見直しなどに明確に言及しており、各火葬場は収益性の改善に敏感になっているのです。 火葬場を直撃したエネルギー価格の高騰 そして、収益性を追求する上でエネルギー価格の高騰が最悪の形で現れてしまいました。 画像はヨーロッパの原油価格指標のブレント原油価格の推移ですが、2000年以降急激に上昇しているのが分かります。 民間だけでなく公営の火葬場においても収益性を追求している中で、エネルギー価格も急激に高騰しており、火葬費用は必然的に上昇していると言えるでしょう。 土葬はもっと高い それなら土葬で良くないのでしょうか。 確かに価格上昇を続ける火葬に対して、土葬の価格変化は落ち着いています。 しかし、イギリスの火葬の平均費用£660に対し、土葬では£1,750と、イギリスでは1,000ポンド以上土葬の方が高くつくようです。 イギリスでは火葬後の遺骨についての法律はかなり緩和してきており、散骨や自宅の庭に埋めることなども可能です。 一方で、土葬を選択した場合は確実に墓地を用意する必要があり、多くは日本の墓地のように墓所とリース契約を結ぶ必要があります。 余談ですが、日本の墓地購入費用の平均が約196万円(2014年:鎌倉新書調査)であることを考えると、イギリスの土葬にかかる費用の平均約34万円というのは興味深いでしょう。永代使用料にあたるリース契約の価格はもちろん、やはり墓石の価格が違うことが大きいのだと思います。 葬儀費用を抑えることを考えた場合、選択肢としては火葬を選ばざるを得ないようです。 教会費用と葬儀社 最も急激に上昇したのは「教会費用」 葬儀の基本費用の中でも最も急激に伸びているのは、教会費用です。教会費用は2013年に平均して30%の増加がありましたが、これはイングランド国教会が2013年に、£102から£160に大幅に引き上げ、さらに国内16000の全教会の料金を統一化したことが大きく影響しています。 葬儀社がリスク回避で価格を引き上げている 葬儀社へ支払うコスト自体は、他のアイテムに比べて価格上昇のスピードが早いわけではありませんが、イギリス経済の低迷を背景とした事情が葬儀社を直撃することになります。 5家族に1家族は葬儀社への支払いができず、葬儀社は今後ますます未払のリスクを抱えることとなるため、葬儀価格をあげたり、2/3近くの頭金を最初に請求するなどの、葬儀社のリスク回避の動きも影響していると指摘しています。 広がる「葬儀の貧困」 葬儀を行う7人に1人が平均46万円の不足を出す 上昇し続ける葬儀費用に対して、やはり支払えない人が増えてきており、イギリスでは葬儀の貧困が深刻化しており、葬儀を行った人のうち、14%の人が平均£2,371の不足額を払うことができません。これは日本円にして約46万円です。 イギリスの年間死亡者数から考えると、国全体の不足額は約2億ポンドにも達することになります。 「葬儀の貧困」は今後も広がる予想 例えば、生花や搬送などの追加費用を除いた葬儀の基本価格は2014年の£3,590ですが、5年後の2019年には£4,489まで上昇するだろうと予想されています。日本円にすると約70万円から約87万円への上昇となり、減少傾向にある日本と比較してその凄まじいスピードが分かると思います。 葬儀費用が上昇し続ける中で何が起きているか プリペイド葬儀 これは葬儀価格を事前に支払う仕組みです。イギリスでは今後も葬儀価格の上昇が予想されているため、プリペイド葬儀を選択して現在の価格で抑えようという人が多いようです。 プリペイド葬儀はいわば将来の葬儀価格の上昇に対する保険となっています。一旦払ってしまえば、その時の価格で葬儀が行えるものの、葬儀内容の全てが含まれているわけではなく、葬儀を執行する者が葬儀の詳細を決定する必要があります。 生命保険 最も簡単な方法は生命保険に入る方法です。 しかし、葬儀費用が上昇した結果、生命保険の受け取る保険金を上回るリスクもあります。 さらに、長生きしすぎた場合には支払う保険料が葬儀費用を上回ってしまうという逆のリスクもあるのです。 直葬やDIY葬儀が増えている 保険で賄う方法以外にもセレモニーは含まず直接火葬場に行く「Direct cremation」(日本でいうところの直葬)や、 追加費用がかかる部分を自分たちで用意したりするDIYオプション、あるいは葬儀社を介さない完全なDIY葬などが増えているようです。 日本にはない「死のコスト」 イギリスでは煩雑な遺産管理を事務弁護士に委託する 今回は日本との比較なので、葬儀費用を中心にしていますが、イギリスでは死後の遺産管理などを行う事務弁護士などの雇用費用も「死のコスト」として重要な位置にあります。 イギリスでは法廷弁護士と事務弁護士に分かれており、特に複雑な手続きなどは事務弁護士に依頼することが一般的で、特に遺産の手続きについては葬儀費用と並んで遺産管理のための事務弁護士の雇用費用までが一緒に考えられているようです。そして、基本的に遺産手続きにおける事務弁護士は遺産総額のうちの何割かを報酬として受け取ります。 不動産価格の高騰で遺産総額も増大し、結果として事務弁護士の雇用コストが上がっている 遺産における最も大きい金額は不動産ですので、不動産価格の変化が遺産管理額に大きな影響を与えることになります。 イギリスの平均住宅価格の推移を見ると、2007年の世界金融危機以降は下落していたものの、2014年になって急上昇していることが分かります。 その影響を受け、遺産管理費用も2013年の平均£2160から2014年には£3004へ、一気に急上昇しています。 また、2013年から2014年の1年間で、事務弁護士を雇うよりも自分たちで財産管理の手続きをする人が39%から52%に大きく上昇しています。 遺産手続きは非常に複雑で時間がかかりますが、今やお金を節約することを選ぶ人が非常に増えているようです。 まとめ 依然として日本の方が高額な傾向だが、イギリスが抱えている問題の方が深刻かもしれない イギリスの葬儀価格は急上昇。平均12万円と言われていた価格は平均70万円までに上がっている さらに、事務弁護士を雇う費用を合わせたイギリス人の考える「死のコスト」のトータルは平均162万円 依然として墓地購入などを含めて依然として日本の方が高額だが、減少傾向にある日本に対しイギリスはこれからも葬儀価格のインフレが続く見通し いかがでしたでしょうか。 「12万円」というデータが古いんじゃないかと思って調べてみると、イギリスの葬儀を取り巻く現状が少し見えてきました。 日本の葬儀が依然としてイギリスより高額なのは確かですが、葬儀費用以外でも日本には香典という収入がありますが、イギリスにはそれがありません。 低価格化が進む日本の葬儀と比べて、今後さらに葬儀費用のインフレの一途をたどるイギリスの葬儀が抱える問題は深刻かもしれません。 参考文献 イギリスの葬儀の値段 - 考える葬儀屋さんのブログ 世界経済のネタ帳 葬儀についてのアンケート調査...