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親の預金の取り込みは税務調査でバレるという話 | 国税OB 税理士 秋山清成

預金の取り込みは税務調査でバレますよ!

1955年1月15日生まれ、福岡県八女市出身。1973年3月、福岡県立福島高等学校卒業。同年4月、大阪国税局に採用される。1974年6月まで、税務大学校大阪研修所に入校。昭和49年7月から平成27年7月まで41年間、大阪国税局・各税務署および国税不服審判所において、主に資産課税の調査等の事務に従事する。この間、銀行・証券会社・医師会およびライオンズクラブなどにおいて多数の講演会講師を務める。2015年7月、明石税務署:副所長で退職。同年11月、秋山清成税理士事務所を開業。
【著書】
税務調査官の着眼力II 間違いだらけの相続税対策
厳しい税務調査がやってくる





今日は「親の預金の取り込みは税務調査でばれます」という話をします。

私は約40年間、国税局・税務署で主に相続税を取り扱う資産課税部門で働いてきました。
勤務時代は皆さんから提出された申告書をもとに相続税の調査対象にするかしないかを判断する申告審理という業務を約2万件、それと税務調査を500件以上をこなしてきたんですが、そんな調査の中で注目していたポイントに「親の預金の取り込み」があります。

親の預金の取り込みとは

これはどういったものかと言いますと、親御さんが認知症になったり、病気になったりした後、家族の方やその配偶者の方などが親御さんの預金を勝手に引き出して、自分の口座に入れたりタンス預金にするというものです。

こういった預金の取り込みは両親が元気なうちはあまり見られませんが、お父さんが亡くなって、お母さんが認知症になられた後とかに行われることがあるんですね。

父親が亡くなり、母親が認知症になった後や病気になり自分で動けなくなった後などに預金を取り込む人がいます

そして、この預金の取り込みはバッチリとその後の調査で問題になるんです。
ですので、今回の記事では親が認知症や病気になった後に相続人の誰かが親の預金を取り込んだ場合、他の相続人はどうやって親の預金の取り込みを指摘すればいいのか、そして税務署は親の預金の取り込みをどうやって調査し、税務調査の際にどのように指摘するのかというテーマでお話していきます。

親が亡くなった後、誰が親の預金を取り込んだ?

冒頭でも少し触れましたが一般的に親の預金の取り込みが行われるのは、両親が元気なうちにはあまり行われません。
実際に預金の取り込みが行われるのはお父さんが亡くなってお母さんが認知症になられた後や病気になり、ご自身で動くことが難しくなった後などに起こるんですね。

そして、その後、お母さんが亡くなり残された相続人が集まって遺産分割を行う際、そこで初めて相続人の誰かが親の預金の取り込みを行っていたことが発覚するんです。

ここからは具体的に私が過去に担当したとある家庭の事案をモデルケースとしてお話します。

私が過去に担当した事案の場合

まず、この一家にはお母さん、お母さんと同居している長男とその奥さん、お母さんとは別々に暮らしているお姉さんと弟さんがいました。

この一家のお父さんが数年前に亡くなっており、そのお父さんの相続手続きはまだまだしっかりしていたお母さんが自分主導で行い、その結果、円満に遺産分割協議を済ませることができて無事に相続手続きも終わりました。

しかし、その数年後、お母さんが認知症を発症しその2年後に亡くなられてしまいました。
お母さんは年金収入の他にアパートや駐車場の収入が月50万円はありましたし、お父さんが亡くなった時に相続した3千万円の預金もありますから結構な財産を持っているはずでした。

ところが、お母さんと一緒に同居していた長男と長女、次男が集まりお母さんの相続手続きについて話をしていた際に事件は起こります。

お母さんの財産の内容を見ていた長女がこう言いました「ちょっと何でお母さんの預金がこんなに少ないの? お母さんはお父さんの預金を相続していたのにこんなに少ないのはおかしいんじゃない」とお母さんと一緒に同居していた長男に詰め寄りました。

長男に詰め寄る長女と次男

しかし、長男とその場にいた長男の奥さんは「俺たちが取り込んだっていうのか。もともとお母さんの預金はこれだけしかなかった」と一点ばりの主張です。




こう言われてしまえば長女や次男たちは親と一緒に暮らしていませんでしたから、長男夫婦が取り込んだという証拠もなくあなたが取り込んだんだろうとは強く追及できませんよね。

ですが不満は残ります。お母さんは年金もそこそこもらっていて生活費はそんなにいらないし、お父さんから相続した預金もあり、アパート収入や駐車場収入もあったはずなのにそれは一体どこに行ったのかという感じですよね。

さて、このような場合、長女や次男は自分たちでは長男夫婦が母親の預金を取り込んでいたと証明できない、証明する方法がわからないと泣き寝入りするしかないんでしょうか。

いえいえ、実は簡単に長男夫婦が預金の取り込みを行っていたかどうかを解明する方法があるんです。
それは何かと言いますと税務署への通報です。

税務署への通報

税務署に対して電話やもしくは直接出向いて、事の経緯を具体的に説明するんです。

以前の動画(「元税務調査間が調査に選んでいた家庭5選」)で税務署への匿名での投書の話をしましたが、通報はもっと積極的なアプローチになります。



相続人の誰かが『親の預金の取り込みをしたか』を調べる方法

税務署側も調査をして、 相続税の追徴が確実に取れる案件が欲しいんですね。調査をしている調査官自身の実績にもなりますから。
ですので、調査をしてみないと分からない半信半疑な案件よりも確実に税金が取れる案件を優先的に調査するんですね。

ですが、税務署の人員にも限りがありますから何でもかんでも税務署に届いた通報に時間を割くわけにはいきません。

なので具体性や信憑性が薄い通報の場合は後回しにされる可能性がありますが、先ほど言ったように具体性と信憑性がある通報に対しては積極的に調査をします。

積極的に調査する場合

では、どういった通報が具体性と信憑性があるのかと言うと、先ほどの家庭のケースの場合、長男夫婦に不信感を持った長女や次男が税務署に対し長男夫婦が親の財産を取り込んでいるという通報をした上で、「亡くなった母は平成◯年に亡くなったお父さんから相続した財産内容やアパートや駐車場の賃貸収入が月50万円もあったのに残った預金額が1,000万円のはずがない。でも長男夫婦は1千万円しかなかったと言っているんです」というふうに亡くなった方の生前の収入や財産状況、長男夫婦の言動などをできるだけ具体的に税務署に提供するんです。

また、亡くなった親の病歴とか長男の勤務先や長男の奥さんは働いているのか主婦なのか、働いている場合、勤務先はどこに勤めているのかなどの情報も提供した方がいいですね。

『預金の取り込み情報』を受けた場合の税務署の調査方法

私は現職時代に申告審理は2万件弱しましたが、このように具体的に当事者である相続人から情報提供がある案件はすぐに調査対象にしていました。

もちろん、調査に着手する前に情報提供者や預金を取り込んだ疑いのある相続人に対して「相続人の◯◯さんから情報提供があったから調査をします」なんて馬鹿なことは絶対に連絡しません。

では、このような情報提供があった案件を税務署はどのように調査をするのかですが、情報は情報として懐に仕舞い、まずは調査先の家族に対して銀行照会を行います。

調査対象事案は亡くなった方、配偶者、相続人、相続人の子供や孫まですべて銀行照会をすると過去の動画で解説しましたが、今回のケースの場合でも同様に家族全体の銀行照会を行い、その回答から本当に長男夫婦が親の預金を取り込んでいる形跡があるのかを精査するんです。

通報を受けた場合の税務署の調査方法

銀行照会の結果、
「なるほど情報提供にある通り親が認知症になりかけた2年ほど前から確かに不明出金がある」
「銀行カード出金だろうか」
「1回に50万円が頻繁に引き出されている平日の引き出しだからサラリーマンの長男が出したんじゃないだろうな。じゃあ長男の嫁か」
というふうにターゲットを絞るんですね。

そのように税務調査官は銀行預金の入出金などを全て調べ尽くし、いよいよ本人宅に乗り込むんです。



税務調査の際に調査官はどの様に『預金の取り込み』を指摘をするのか

さて、ここから相続に対して、税務調査の聴き取りが行われるのですが、調査官はいきなり本題を切り出すことはありません。

まずは世間話から入り、そして徐々に預金の取り込みに対して言い逃れできないよう外堀を埋めるように質問をして行きます。

税務署が預金の取り込みを指摘する方法

その際にどんな質問をするかと言いますと、なくなったお母さんの経歴、趣味、病歴、死亡原因などを尋ねます。

このような案件の場合、病歴などはかなり詳細に聴き取りをします。
「お母さんは認知症はいつ頃発病されたんですか?」
「お母さんが入院されていたんですか?それとも自宅療養ですか?」
「病院はどこですか?」
「面会は頻繁に行かれましたか?」
「主治医はどなたですか?」
「お母さんは最後まで意識ははっきりされていましたか?」
「意識はいつ頃からなくなられましたか?」
など相続人からの情報を確かめながら聴き取りを行います。

 お母さんの病状などを質問する税務調査官

こういった調査官の質問には全て意図がありましてその詳しい内容については過去の動画(「税務調査時の鉄則の質問と、その質問の意図を解説!!」)で解説しています。

これらの聴き取りが終わりましたらさていよいよ調査の本番です。

調査官はここから預金の取り込みに関する質問を行います。
「お母さんが亡くなる2年前から頻繁に50万円の引き出しがありますが、このことは長男さんはご存知ですか?」と聞くわけですが、すぐに認める人はいませんから、大体「知りません」と言われるんですね。

調査官は続けて、他の相続人に確認を取りますが、通報した本人たちは当然「知りません」と言われます。
そこで「誰かご存知ありませんか?」、「それじゃあ誰が頻繁に出金したんでしょうね?どなたか心当たりはありませんか」と投げかけると長男が「母が何らかの理由で出金したんじゃないですかね」とこう言われたりするわけです。

自分で出金したのではないかと嘘をつく長男




しかし、調査官は亡くなったお母さんの病歴に関する質問をしていましたよね。
当然嘘だとわかりますから、「いえ、先ほど2年前から認知症が進み体調も悪化していたとおっしゃっていましたよね。そんな方がこんなに頻繁にお金を出しに行きますか?それに病気の方がこんなお金何に使うんですか?」とさらに問いただすんです。

長男に問いただす調査官

長男は預金を取り込んで事実を隠したがりますし、弟さんとお姉さんは本当に知りませんから、調査官は相続人から明確な回答を得られません。

ですので「皆さん本当にご存知ありませんか?先程お茶を入れてくださったのはお兄さんの奥さんですか?ここに呼んでください」とお願いするんですね。

奥さんを呼んでくださいと要求する税務調査官

そこで、また長男が「妻は相続人ではありませんのでそれはちょっと…」とはぐらかされるのですが、「聴き取りが必要かどうかは私が判断します。この場所が具合悪かったら部屋を変えてもいいですよ」というふうに長男の奥さんにも調査の席に同席してもらい真相を追求します。

その結果、奥さんが言い逃れができなくなり「お母さんの入院などで物入りだったので私が引き出しました」と白状しましたら引き出した預金がどのようになってるかを尋ねます。

そこで、奥さんから「貸金庫に入れています」とか、「◯◯銀行の私の通帳に入っています」という言葉を聞きましたら貸金庫を見に行きますし、通帳は提示を受けて中身を確認します。

その残高がお母さんの口座から出金された総額よりも少なければ何に使ったのか問いただすんです。
「お母さんの口座から出金された総額よりだいぶ減っていますよね。何に使いました?」
「お母さんの医療費の支払いなんかに使いました」と回答があれば、「では領収書を見せてください」となるわけです。

義母の療養費に使いました

このようにして、本当にお母さんのために使ったのかそれとも自分たち夫婦のために使ったのか、取り込んだ預金の解明を行うんですね。

お母さんの預金から引き出したお金はお母さんのために使った分以外はお母さんからの預り金となりますから、もちろん預り金は相続財産です。
また、預り金は遺産分割対象財産になりますから、相続人全員で預り金の分割を協議してもらうことになるんですね。

税務署に通報したことで、このように次男や長女の思惑通りに長男夫婦が取り込んでいた預金は白日のもとにさらされることになります。

その際にもし取り込んでお金を使い込んでいたら長男夫婦は悲惨なことになりますね。
もうお金はないのに兄弟からは財産分けを請求されますし、相続税は払わなければいけない。
さらに預金の取り込みが悪質と判断されたら重加算税の対象にもなりますので、まさに踏んだり蹴ったりです。




税務署が預金の取り込みを指摘する方法

多くの方は両親の診療費用の捻出のためにやむなく両親の預金を引き出して管理されていると思いますが、後々兄妹姉妹や税務署にきちんと説明ができるように引き出したお金を何に使ったのか領収書などをきちんと保管しておいてください。
善意でしたことでも後々あらぬ誤解を受けることがありますからね。

領収書などをキチンと保管しておきましょう

具体的で信憑性のある内容で兄妹姉妹が親の預金を取り込んでいることを税務署に通報しても税務署が調査をしないこともあります。

これはどんな場合かと言いますと、亡くなった方の財産が相続税がかかるか、かからないかの境目である基礎控除額以下の場合です。
税務署はいくら寄せられた情報が本当だとしても調査をしても税金が取れないなら調査を行いません。

ですので3千万円+600万円×法定相続人の数という基礎控除の額を超えている財産がある、つまり、相続税がかかる場合でしたら、今回お話した一家のように税務署に他の相続人に取り込まれた預金の解明を任せる方法が取れるんです。

しかし、もしも今回お話した一家のお母さんの財産が相続税の基礎控除以下だった場合、いくら長女や次男が「長男夫婦が親の預金を取り込んだ」と税務署に通報したとしても税務署は動いてはくれません。

通報しても調査されないこともある

長女や次男は長男夫婦が母親の預金を取り込んだかどうかを自分の力で調べるしかないんですね。
その場合、親が預金をしていたであろう銀行に過去の取引内容を自分で照会して、その中から何に使ったかわからない出金を拾い上げて預金を取り込んだ人物を追求するしかないんです。
しかし、その際に長男夫婦から「そんなもん知らん。お母さんが何かに使ったんだろうと」言われてしまえば、これ以上の追及は弁護士さんにでも依頼しない限り難しいですね。




まあ、それでも他の相続人が取れる行動を強いて挙げるとすれば、亡くなったお母さんの銀行預金は銀行が預金者が亡くなったとすれば預金凍結をしますから、銀行にお母さんが亡くなった事を知らせるというのも一つの対抗策でしょうか。
そうすれば現在残っている預金だけでも長男夫婦に勝手に引き出されることはなくなりますからね。

また、預金凍結解除のためには相続人全ての了解が必要ですから、預金を取り込んだ人物があなたに実印や印鑑証明を要求してきたときにはすぐに押印せず、印鑑証明も渡すことなくしっかりと預金の取り込み等の是非について交渉されることをお勧めします。

自力で取り込まれた預金を調べる方法

今日は親の預金の取り込みは税務調査でばれますという話をしました。

最後に人生に役立つ偉人の言葉、今回は中国三国時代の文学者 陸機の「李下に冠を正さず」です。
「李下」の「李」とは果物のすもものことです。すすももの下で冠をかぶりなおすために手をあげるとすももを盗もうとしているような誤解を与えることになる。疑わしい真似をするものではないという意味です。

今回の話で言いますと認知症や病気になったご両親の預金の出金も必要不可欠なもの以外はされないこと、されたとしてもきちんと領収書など証拠になるものを保管しておいてくださいということです。





秋山清成

この記事は下記の動画の内容を書き起こしています。よろしければ動画もご視聴ください。

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