散骨とは何か? 脚光を浴びている背景から散骨に必要な知識、および手元供養との関係
近年、日本の核家族化や少子高齢化を背景に、故人の供養として散骨を選択する方が増えています。
今回はこの散骨にスポットを当て、散骨のメリット・デメリット、散骨出来る場所について、散骨時の注意点等についてまとめました。
自然葬のひとつ「散骨」という選択
よく知られている自然葬に、散骨と樹木葬があります。
昨今、時代背景に合わせて、実に様々な形の自然葬が誕生しています。
多様化する自然葬の形
散骨
山林や海・川・島などに火葬した遺骨を細かく粉骨した後、まくことをいいます。
ただし、条例によって散骨が禁止されているところもあり、山林の場合は持ち主の許可が必要です。
海洋葬(海洋散骨)
散骨の中でも、海にまかれる散骨を海洋葬(海洋散骨)と言います。
船からまくのが一般的ですが、ヘリコプターで空から海にまくサービスもあります。
また、お花やお酒、メッセージを書いた紙などを同時に流すこともあります。
樹木葬
あらかじめ許可を受けた山林や墓地の一角にある樹木を墓標代わりにした埋葬形式。
骨壷を埋めるやり方と遺骨を直接土中に埋め、その上に樹木を植えるやり方があります。
埋葬場所は民営霊園と公営霊園それぞれの樹木葬用の墓地になります。
※樹木葬の詳細はこちらの記事を参照ください
>>樹木葬とは? その種類や費用から手元供養との関係まで
その他、宇宙葬や風葬などと言うものもあります。
散骨が求められている背景
歴史的背景
そもそも日本では、散骨を含めた自然葬が違法とされていたため、墓地への埋葬以外が認められていませんでした。(通称墓地法:「墓地、埋葬等に関する法律」の第4条「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域にこれを行ってはならない」に基づく)
しかし、1991年10月にあるNPO法人が相模灘で初めて公の自然葬を行ったことを機に、国および当時の法務省が「葬送のための祭祀として節度をもって行われる限り違法(=遺骨遺棄罪)には当たらない」との見解を示したため、その後、散骨・樹木葬などの自然葬が認められるようになりました。
現代社会との親和性
核家族化、少子化そして超高齢化社会。
安定しない雇用情勢で生活困難な状況のためにお墓を買えるだけの経済的余裕がない。
お墓があっても後見人がいなくて無縁仏になってしまう。だから墓じまいしてしまおう。
そうした社会情勢から散骨の需要が高まっています。
また、産まれる人数よりも多くお年寄りが天寿を全うされる、いわゆる「多死社会」の中、埋葬場所の確保が困難な日本では自然葬は需要のある供養の形であり、今後ますます求められることが予想されます。
さらには、狭いお墓に入るのはいや、もっと自由でいたいと言った、故人または終活準備をされている方々の自然回帰願望もあります。
また、身内や子どもに死後までもお金の面で迷惑をかけたくないといった思いを持たれる方もいらっしゃいます。
まさに、こうした現代社会との親和性によって生まれたのが散骨なのです。
埋葬と比較した散骨のメリット・デメリット
埋葬と比較して散骨にはどんなメリットとデメリットがあるのかをみてみましょう。
散骨のメリット
費用が安い
埋葬ではお墓を建てる必要があります。
また、すでにお墓を持っていても、お墓に納骨するための業者への費用や、お坊さんへの謝礼なども必要になります。
しかし、散骨にかかるのは粉骨と散骨ならびに供養のお代だけなので、比較にならないほど費用を抑えられます。
管理が不要
お墓のように場所を伴なわないので、お墓を管理する必要がありません。
ですので、配偶者や子孫は、お盆・お彼岸の費用や労力の負担が軽くすみます。
お寺との付き合いが不要
お墓を持たないため、お寺との付き合い不要です。
このためお寺に払う金銭や時間も節約出来ます。
故人の意思を尊重できる
おだやかな南国の海にまかれたい、空気が澄み切った山の中で自然に還りたいなど、故人の希望を叶えることができます。
散骨のデメリット
どこに祈ればいいのか分からない
遺骨ロスといいます。
散骨した後に、いったいどこに向かって祈ればいいのか分からない。
海洋散骨したのであれば、遺骨がどこに行ったのか分かりません。
地面に散骨した場合でも、風雨で流されてしまっているかもしれません。
樹木葬であればまだそこにあると思えますが、散骨となるとどこに祈れば良いか分からず、散骨したことを後悔される方もおられる様です。
そうしたこともあり、最近では遺骨をすべて散骨するのではなく、一部を手元に残し、手元供養する方が増えています。
世間体が問われることも
需要が高まっているとは言え、まだ散骨に対してよい思いを持っていない方はいらっしゃいます。
特に家族や親戚には事前にしっかりと相談をした上で、散骨することが求められます。
散骨に必要な手続きと流れ
それでは、実際に散骨を行う際の手続きとその流れを見てみましょう。
海洋散骨の場合
1.遺骨のお預け
散骨サービス会社に遺骨を預けるタイミングは墓じまいの場合、掘り出した後になります。
また、業者でなく自分たちで粉末化し海に弔う場合はこの行程は不要です。
預ける際は申込書、散骨依頼書をネット、郵送またはファックスで送付します。
日程を相談し、遺骨を預け綿密な打ち合わせを行います。
2.遺骨を粉末化
遺骨を2mm以下のパウダー状に粉骨することが必要です。
個人でも行うことが出来ますが、散骨依頼先によっては料金に含まれているため、専門業者や火葬・葬儀社に依頼するのが一般的になります。
3.一緒に散骨場所へ船移動
散骨専用船、クルーザーなどに乗船し陸岸を避けた散骨海域に向かいます。
4.散骨・献花、献杯
水溶紙に包んだパウダー状の遺骨と花びらを海に投じたのち、献杯・献酒を行います。
5.黙祷
散骨した海域を回ったのち、別れを告げ、汽笛または鐘を鳴らします。
6.帰港
下船後、記念撮影し解散。後日、散骨証明書等が郵送されてきます。
山に散骨する場合
山に散骨するのは散骨全体の5%程度と言われています。
登山愛好家などが散骨を希望されることが多く、故人の遺灰を頂上で撒くための弔い登山というものもあります。
山に散骨する場合の注意事項
1.遺骨を粉末化
遺骨を2mm以下のパウダー状に粉骨することが必要です。
個人でも行うことが出来ますが、専門業者や火葬・葬儀社に依頼する事も出来ます。
2.山の所有者の許可を得る
勝手にまくと後でトラブル、または損害賠償請求の原因となります。
必ず山の所有者を確認し許可を取るようにしましょう。
自宅の庭に散骨する場合
自宅への散骨はいくつかの条件があります。
まずお住いの市町村の条例で散骨自体が禁止されてないかを確認しましょう。
万が一条例に違反すると、罰金刑に課されますのでご注意ください。
また、自宅の庭には墓石を建てることが出来ません。
しかし、墓石や墓標の代わりにお花を植えることは出来ます。
故人がもっとも安心出来る場所・落ち着く場所である自宅の庭に散骨するのは、
将来その土地を売却しないと100%言えるのであれば検討されても良いかもしれません。
なお、売却する場合は物件売買時の重要事項として記載が必要になります。
また、自宅の庭であっても必ず2mm以下のパウダー状にして遺骨とわからない形で撒く必要があります(埋めてはいけない)。
国内で散骨できる場所
その前に、日本国内で散骨が禁止されている場所を押さえておきましょう。
散骨が禁止されている場所
散骨を規制する法律はありませんが、一部自治体では条例で散骨そのものを禁止しています。
特に厳しいのは北海道 (長沼町、七飯町、岩見沢市)や伊豆半島(熱海市、伊東市など)です。
たとえば、北海道長沼町では散骨場所を提供する業者(条例違反者)には6月以下の懲役又は10万円以下の罰金が課されます。
また、熱海市は、市内の土地から10キロメートル以上離れていること、伊東市の場合は6海里(およそ11キロメートル)以上離れてないと散骨できない決まり(ガイドライン)があります。
>>熱海市海洋散骨事業ガイドライン
>>伊東市における海洋散骨に係る指針
また、規制や法律がなくても以下の場所はトラブルや訴訟を避けるために適さない場所になります。
- 観光地とその周辺
- 他人の所有地など利権者が存在する土地
- 散骨許可のない公共施設、公園など敷地内
- 養殖場や海水浴場など風評被害が考えられる場所
- 湖、河川など生活用水に直結する場所
- その他、人に不快を与えると思われる場所
特に後で訴訟問題にならないよう事前に調査し、散骨許可をとってから行うようにしてください。
日本で散骨できるスポット
日本国内の散骨に関して言えば、大山隠岐国立公園内にある島根県隠岐諸島の一つカズラ島が有名です。
ここは国内で唯一公式の散骨場となっていますが、散骨費用が高額なので、その点はお財布事情とご相談ください。
他にも以下にまとめてみました。
日本で散骨できる場所
場所 | 注意事項 |
---|---|
自宅の庭 | トラブルをさけるため近隣住民との合意を得るのが無難 |
持ち山 | 近くに水源がないか確認を |
漁場から離れている沖合の海 | 観光スポットや海水浴場など風評被害になる場所は避け、綿密に調査確認すること |
業者が散骨場所としている場所 | 周囲の影響や近隣との同意がすでにとれているため、問題にはならないが個人でまく場合は業者とトラブルにならないようにすること |
散骨許可や確認が必要となる場所
場所 | 注意事項 |
---|---|
他人の庭、山、森など私有地 | 本人から許可を得られてたとしても、近くに水源などがないか確認すること。また近隣住民の同意も得て後々のトラブルを避けること。 |
国有地 | 管理者に許可を得ること |
その散骨、法律違反かもしれません
マナーとルール
お金をかけたくないから散骨を自分でやる。たしかにそれも一つの手でしょう。しかし、勝手にやってはいけません。
まず第一に地中に埋めるには許可がいりますし、また、遺骨とわかる形で放置すれば事件化してしまうため、必ず2mm以下の粉末状にしなくてはなりません。
また、大切な人の骨を自らの手で砕くのは心の準備やカウンセリングなしでは精神的苦痛を伴うものです。
一方で、あえて遺族の手で粉末状にすることで故人をしのぶ大切な時間となりますので、その点はご遺族と故人との間で事前に決めておくとよいでしょう。
なお、散骨場所が私有地の場合は当然のことながら土地の所有者の許可を得る必要があります。
刑法にふれるケース
遺骨を遺棄すると刑法190条、死体等遺棄罪により3年以下の懲役刑に課されます。
また、墓地、埋葬等に関する法律により「焼骨の埋蔵は、墓地以外区域にはしてはならない」ということが決まっているため、墓地以外つまり土の中に埋める場合は許可が必要となります。違反すると罰金または勾留、科料が課されます。
また、法整備が進んでいない現状もありますが、自宅の庭、公園などの社会的活動が活発な場所、ならびに海水浴場、海産物養殖場、岸の近くなど漁業権に抵触するエリアで散骨すると風評被害や精神的苦痛を理由にした損害賠償請求・慰謝料請求が考えられます。
ただし、非公式ではありますが、法務省が「葬送のため節度を持って祭祀が行われる限り問題ない」との見解を示しているように散骨をおこなう際は骨と分からないよう2mm以下に粉砕し、布で包むなどの配慮が必要となります。
注意事項
遺骨を散骨する場合は、節度のある形で岸辺や漁業などに影響しない場所で散骨することが大切です。
いずれにしても事前に関係機関に確認をとって、後で処罰の対象にならないようご注意ください。
手元供養をあわせて行うことをお勧めします
ここまで読まれて散骨という選択肢をどのようにとらえられたでしょうか?
散骨の素晴らしさは自然に還ること、経済的負担が少ないこと、身内や子孫に苦労や面倒をかけないことなど様々あります。
しかしながら、ただひとつ注意してほしいことがあります。
それは、本記事の中でも述べた、すべての遺骨を手放したことによって手元に遺骨が一切なくなることにより生じる、すなわち「遺骨ロス」 と言うものです。
すべて手放すのは、後悔の原因に
想像してみてください。故人の遺志、あるいは遺言などで散骨をしてほしいとあったとしても、すべてを散骨してしまったときの状況を。
気持ちが晴れやかになるどころか、手元に愛する故人の遺骨がなくなってしまった、我が家に手を合わせる墓がどこにもない。
その虚無感から涙に明け暮れる毎日になったとしたら、それこそ後悔してもしきれません。
一部だけでも手元供養という選択
これまで愛した人、愛してくれた人、大切にしてくれた家族の遺骨をすべて散骨するのではなく、一部だけでも手元に残しておけたら…
それが出来るのが手元供養です。
手元供養はアクセサリーや仏具に遺骨を納めることで、常に故人と共に心ひとつにいられる安心感が得られます。
まとめ
ここまで散骨について紹介してきましたがいかがでしたでしょうか?
散骨は以下の様な方に最適な埋葬方法です。
- 自然に還りたい自然回帰思考の方
- 暗いところに閉じ込められたくない方
- 無宗教、墓に特段のこだわりがない方
- 経済的理由でお墓を持てない方
- 墓の継承が困難な方
- ご家族や子孫に面倒や負担をかけたくない方
- ご家族や親戚の賛同が得られる方
散骨は、いまの時代のニーズにあった、合理的な供養の形といえるでしょう。
法律に反しないことをしっかりと確認した上で、ご家族や親戚の賛同が得られれば選択することも問題ありません。
しかし、後々後悔しないことが大切です。
そのためにも、散骨を選ぶ場合には、遺骨を一部手元に残し、手元供養することをお勧めします。